知っておきたいISOのプロセスアプローチ、業務フローとの関係

この記事は約 8 分で読めます

ISO 9001では、品質マネジメントシステム(QMS)の構築において「プロセスアプローチ」の採用が求められています。大まかな表現で説明すると、組織の業務をプロセス単位で捉え、各プロセスの役割、連携、管理、改善を実現する考え方です。なお、ISO9001:2015は業務フローという形式に固執せず、必要な文書化された情報の維持を求めるため、業務フローの定義自体は組織の実情に応じた表現方法で可能となっています。

本記事では、ISOのプロセスアプローチに基づく業務フローの作成方法と、必要に応じたツール(例:スイムレーン図やQC工程図)の活用方法について解説します。

📌 1. 業務フロー作成の基本手順

業務フローの作成は、組織全体の流れと各プロセスの具体的な手順を整理することが求められます。ただし、ISOでは必ずしも図式の形での文書化が義務付けられているわけではなく、実際の運用や慣習に合わせた情報管理が許容されています。ここでは、全体像と内部手順を整理するための3段階の手順をご紹介します。

🔍 (1) 全体業務のプロセス定義

まず、組織全体の業務を大まかなプロセスに分解し、それぞれの目的や役割、連携関係を明確にします。たとえば、以下のプロセスが考えられます。

  • 受注プロセス
  • 設計・開発プロセス
  • 製造プロセス
  • 品質管理プロセス
  • 出荷・納品プロセス
  • 顧客対応プロセス

この段階は、いわば高レベルの「プロセスマップ」として機能し、組織全体の流れを俯瞰するための基盤となります。

🗂 (2) 各プロセスのサブプロセス定義と内部手順の明確化

次に、定義した各プロセスをより具体的なサブプロセスに分解し、内部で実施される作業内容、判断基準、担当者の役割など「内部手順」を詳細に整理します。
たとえば「製造プロセス」では、以下のサブプロセスが考えられます。

  • 材料調達
  • 組み立て
  • 検査
  • 梱包

ポイント

  • ここで整理する内部手順は、各プロセスが実際にどのように遂行されるかの詳細情報となり、作業標準書や手順書など、内部運用用の文書として利用されます。
  • つまり、内部手順の明確化は各プロセスの「中身」を理解し、現場での具体的な実施方法を確立するための準備作業です。
必要に応じて各プロセスの作業内容や担当者、判断基準についての資料を作成します

📊 (3) 業務フローの作成(全体連携の視覚化)

最後に、(2)で整理した各プロセスやサブプロセス(内部手順)の情報を基に、組織全体の業務の流れや各プロセスの詳細な作業手順を視覚的に表現する文書を作成します。
ここで作成する業務フロー図は、以下の役割を果たします。

  • 組織全体のプロセスの連結や、部署間のインターフェース、情報の流れを一目で把握できるようにする。
  • スイムレーン図などの手法を用いれば、各部署や担当者の役割分担と連携タイミングを明確に示すことが可能です。
  • プロセス内部の詳細手順は簡潔な注記やブロックで示すとともに、他のプロセスとの連携も意識します。

組織全体の業務フローの表現(例:スイムレーン)

プロセス内の詳細手順の表現

また、ISO 9001の要求事項(例:8.5「製造やサービス提供の管理」)に基づき、以下の管理ポイントも業務フローに組み込むとよいでしょう。

  • 作業手順の標準化(作業標準書、チェックリストの活用)
  • 必要資源の確保(設備、工具、作業環境の管理)
  • 工程内検査と検証(品質チェック、トレーサビリティの確保)
  • プロセス変更の管理(設計変更、製造条件の変更管理)
  • 作業者の力量管理(教育・訓練の実施)

これらのポイントを明示することで、業務フローはISOの要求事項を十分に満たす文書となります。

🔗 2. 業務フローとプロセスマップの関係性

業務フローは、組織全体のプロセス連携と、各プロセス内の具体的な手順を統合して示すツールです。従来は、全体像を示すプロセスマップと、現場の詳細手順図を別々に作成するケースが一般的でした。しかし、スイムレーン図のような統合的手法を用いれば、部署間の連携(プロセスマップ的視点)と各プロセス内の詳細手順(業務フロー的視点)の双方を一つの文書で表現可能です。

この統合的アプローチのメリットは以下の通りです。

  • 各部署の役割と連携が一目で把握できる
  • 問題発生時に、どのプロセスや部署で課題があるか迅速に特定できる
  • ISO要求事項に沿った管理体制が、一つの文書で完結するため、運用が効率化される

また、製造業などでは、業務フローと併せてQC工程図(品質管理工程図)を作成することで、品質管理の視点をさらに強化できます。

3. プロセスアプローチのメリット

プロセスアプローチを採用することで、各プロセス単位での管理と改善が可能となり、以下の効果が期待されます。

  • KPI設定によるパフォーマンス評価
    各プロセスごとにKPI(重要業績評価指標)を設定し、定量的な評価が行えます。
    例:
    • 受注プロセス:受注リードタイム、成約率
    • 設計・開発プロセス:設計変更回数、不具合率
    • 製造プロセス:生産効率、不良率
    • 品質管理プロセス:工程内不良率、顧客クレーム件数
    • 出荷・納品プロセス:納期遵守率、出荷ミス率
    • 顧客対応プロセス:顧客満足度、クレーム対応時間
  • 継続的な改善活動の推進
    PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Act)を回すことで、各プロセスの改善活動を体系的に実施し、組織全体のパフォーマンス向上が期待できます。
  • プロセスの標準化による人材育成と引継ぎの容易化
    プロセスが標準化されることで、新たな従業員への教育や業務の引継ぎがスムーズになります。

🎯 まとめ

ISOのプロセスアプローチに基づいた業務フローの作成は、業務全体の可視化、管理の効率化、そして品質向上を実現する有効な手法です。
特に、スイムレーン図形式の業務フローは、部署間の連携(プロセスマップ的要素)と各プロセス内の詳細手順(業務フロー的要素)の両面を統合できるため、単独でISOの要求事項を満たす文書となる可能性があります。また、ISO9001:2015が求めるのは「必要な文書化された情報の維持」であり、業務フローの定義は組織ごとに柔軟に運用して構いません。製造業などでは、QC工程図と併用することで、より効果的な品質管理が実現できます。

業務の効率化と品質向上を目指す企業は、従来の手法に加え、こうした統合的な業務フロー作成方法を積極的に検討することで、ISOのプロセスアプローチをより実践的かつ効果的に運用できるでしょう。


このように、全体の流れと現場レベルの詳細をバランスよく統合した文書作成は、ISOシステム構築における柔軟性を活かした効果的なアプローチとなります。

この記事を書いた人Wrote this article

森田 康之

森田 康之

ISO9001の審査員として活動中。中小企業診断士、ISO14001の審査員補の資格を保有。企業にフィットしたISOシステム「みのたけISO」を構築するため支援を提供する。

TOP