部署のビジョンを作る方法(実例編)

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前回のコラム「部署のビジョンを作る方法」では、部署ごとのビジョンを設定する重要性と、その作り方について解説しました。今回は、具体的な企業の事例を用いて、どのように部署のビジョンを作り、会社全体のビジョンと紐づけていくのかを詳しく説明します。

事業の業態や組織の規模によっては、以下の事例と同じようにはできない場合もあるかと思います。例えば、あまり人数が多くない部署の場合は、その部署のリーダーの方が一人で検討することになるかもしれません。そのような場合でも検討の進め方の骨格は変わりませんので、ぜひ参考にされてください。

↓ 前回のコラムはこちらです。

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部署のビジョンを作る方法企業が成功するためには、明確なビジョンが欠かせません。例えば、GEの元CEOジャック・ウェルチは「業界でNo.1かNo.……

【事例】株式会社ABCのビジョンと各部署のビジョン策定

株式会社ABCは、急速な技術進化と市場変化に対応するため、会社全体のビジョンを再定義することを決断しました。これに伴い、各部署が自らの役割を明確にし、より具体的なビジョンを策定することが求められました。

再定義した会社全体の理念・ビジョン・戦略

  • 理念: 「技術革新を通じて、人々の生活を豊かにする」
  • ビジョン: 「業界トップクラスの技術力を持ち、社会に貢献する企業を目指す」
  • 戦略:
    • 研究開発への投資を増やし、独自技術の開発を推進する。
    • 顧客満足度向上のため、品質管理体制を強化する。
    • マネジメントシステムの運用を徹底し、継続的改善を実施する。

製造部の理念・ビジョン・戦略

製造部は、品質管理と生産性向上において重要な役割を担います。以下に示す製造部のビジョンを作成した経緯を見ていきましょう。

1. 理念の策定プロセス

製造部の理念は、会社全体の理念と整合性を持たせつつ、製造部が果たすべき役割を明確にすることを目的として作成されました。

  • 会社全体の理念との整合性の確認: 会社の理念「技術革新を通じて、人々の生活を豊かにする」を基盤に、製造部の貢献の方向性を明確化。
  • 部署の役割の明確化: 高品質な製品を安定して提供することが、会社のビジョン「業界トップクラスの技術力を持ち、社会に貢献する企業」に直結する。
  • 主要なステークホルダーの期待を考慮: 顧客、経営層、従業員などの期待を分析し、製造部の果たすべき役割を整理。
  • 理念の言語化: 上記の要素を踏まえ、「高品質な製品を安定して提供し、顧客の信頼を築く」という理念を策定。

2. 外部環境・内部環境分析(SWOT)

製造部の環境分析は、社内の関係者とのヒアリングやデータ分析を通じて行われました。経営層や現場のリーダーからの意見を集約し、実際の生産状況や過去の品質データを基に、強み・弱み・機会・脅威を整理しました。以下の例では、それぞれの内容を1項目にまとめていますが、通常は複数の項目が抽出されることが一般的です。

環境分析内容抽出方法
強み最新設備の導入、高い技術力設備投資の履歴や技術者のスキル評価を基に特定
弱み生産プロセスの一部に非効率な部分がある生産データの分析や、現場作業者のフィードバックをもとに抽出
機会市場の成長、新技術の活用業界レポートや市場調査を基に予測
脅威競合企業の台頭、原材料価格の高騰競合分析や過去の価格変動データをもとに特定

3. クロスSWOT分析と打ち手の検討

SWOT分析で抽出した各要素をクロス分析し、それぞれの項目を照らし合わせながら、適切な打ち手を検討しました。ここでは説明のために簡略化していますが、実際の企業では、各施策の実現可能性やリソース配分なども考慮しながら具体的なアクションプランを策定しています。

  • 強み × 機会: 最新設備と高い技術力を活かし、新技術を積極的に導入する
    • 打ち手: 生産ラインの自動化・デジタル化を進め、効率向上を図る。
  • 強み × 脅威: 高い技術力で競合企業との差別化を図る
    • 打ち手: ISO9001の品質管理システムを活用し、製造プロセスの標準化を推進する。
  • 弱み × 機会: 生産プロセスの改善により、市場の成長を取り込む
    • 打ち手: 従業員のスキル向上のための研修プログラムを定期的に実施する。
  • 弱み × 脅威: 非効率な部分を改善し、競争力を強化する
    • 打ち手: 不良品率を削減するための品質改善プロジェクトを継続的に実施する。

4. ビジョンの策定

ビジョンの策定にあたっては、会社のビジョンと照らし合わせながら、製造部の数年後の理想像を描くことを重視しました。具体的には、

  1. 会社全体のビジョンと整合性の確認
    • 会社全体のビジョン「業界トップクラスの技術力を持ち、社会に貢献する企業」を基盤に、製造部のビジョンを策定します。
  2. 製造部の将来像を明確化
    • 製造部の数年後の理想像を描き、製造部が達成すべき具体的な目標を設定します。
  3. 先に設定した打ち手とビジョンをすり合わせ、整合性を確保
    • ビジョンと打ち手は行ったり来たりしながら整合性を確認し、実現可能な具体的なアクションプランを策定します。
  4. ビジョンの言語化
    • 整合性を取ったビジョンを具体的な言葉で表現し、「高品質と効率を追求し、常に進化する製造現場を目指す」というビジョンを策定しました。

まとめ

ここで紹介した事例はあくまで一例ですが、ビジョン策定の基本的なフレームワークとして活用できます。ビジョンは、会社全体の目標と連携しながら、各部署が具体的な目標を持つことで、全体のシナジーを生み出す重要なツールです。実際の企業での導入時には、自社の状況や特性に応じてカスタマイズすることが求められます。

この記事を書いた人Wrote this article

森田 康之

森田 康之

ISO9001の審査員として活動中。中小企業診断士、ISO14001の審査員補の資格を保有。企業にフィットしたISOシステム「みのたけISO」を構築するため支援を提供する。

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