ISO9001文書化の必須ポイント:成功と失敗の事例

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📄はじめに

ISO9001の導入を検討する際、多くの企業が「どこまで文書を作成すればよいのか?」という疑問に直面します。文書を作りすぎると形骸化し、少なすぎると審査で指摘される可能性があります。本記事では、ISO9001の文書化の基本と、実際の事例をもとに最適なルール作りのポイントを解説します。

※ここでは、作業手順や承認ルートなどをまとめて「ルール」と表現しています。

📜 ISO9001で求められる文書とは?

ISO9001では、明確に「作成すべき」とされる文書がいくつかあります。

必須の文書

  • 品質方針
  • 品質目標
  • 組織のプロセスとその相互関係
  • 運用のための文書化された情報
  • 記録としての文書(適合証拠としての記録)

これらは、審査時にチェックされる項目となっているため、適切に整備する必要があります。

企業ごとに異なる文書

ISO9001では、必要な文書の範囲は企業の規模や業種によって異なります。例えば、製造業では作業手順書や検査記録が重要になりますが、サービス業では顧客対応のフローが重視されます。

例えば、規格の箇条8.5には、「製造やサービス提供を管理された状態で実行する」ことが求められています。これに対応するための文書の具体例を説明すると、製造業では工程管理表や検査基準書、サービス業では、顧客対応マニュアルなど求められます。ただし、あくまでも「製造やサービス提供を管理された状態で実行する」ために必要な文書であり、各企業が独自に用意した文書体系で構いません。

⚠️ 文書を増やしすぎると起こる問題

ISO9001の導入時に、「とにかく文書を作ればいい」と考えると、以下のような問題が発生します。

  • 現場が文書に従わない → 実態に合わないマニュアルは形骸化する
  • 管理が煩雑になる → 文書の更新・管理が負担になり、運用が難しくなる
  • 審査で指摘される → 実際に使われていない文書は、かえって問題視されることも

このような問題を防ぐためにも、適切なルール作りが重要です。

📖 事例で学ぶ最適なルール作り

📌 事例1:製造業A社(文書過多で形骸化)

 問題点:すべての業務を細かくマニュアル化した結果、現場では誰も読まなくなり、監査時に「実態と合っていない」と指摘される。

細かすぎるマニュアルの例:

  • ネジを締める際の力加減をトルク数値まで細かく指定し、全工程に渡って記録を義務付けた。
  • 作業ごとに詳細な承認フローを設け、作業開始前に複数名の確認が必要な状態になっていた。

改善策:必要最低限の手順書に整理し、現場の声を反映したシンプルな文書体系に変更。

簡略化の例:

  • トルク管理は必要な箇所のみに限定し、作業員の習熟度に応じた簡易チェックリストを導入。
  • 重要な作業のみ承認フローを残し、一般的な業務は現場判断で進められるように調整。

📌 事例2:IT企業B社(文書不足で運用に支障)

問題点:文書がほとんどなく、新入社員が業務の進め方を理解できず、品質のばらつきが発生。

プアな文書の例:

  • 「お問い合わせ対応は適宜処理すること」としか記載されておらず、対応の手順や基準が不明確。
  • 「プログラム開発は詳細仕様書に従うこと」との一文のみで、どの段階でレビューやテストを行うのか、また、それらの基準が定められていない。

改善策:業務のポイントを押さえたフローチャートを作成し、必要な部分だけ文書化。

📌 事例3:サービス業C社(バランスの良い文書管理)

成功のポイント:

  • 文書化は必要な業務フローに限定
  • 社員がすぐに参照できるデジタル化された管理システムを導入
  • 継続的な見直しで使いやすさを確保

具体的な見直しの方法:

  • 半年ごとに現場の担当者からフィードバックを集め、不要になった文書や修正が必要な箇所を洗い出す。
  • 文書管理システムを活用し、変更履歴を記録しながら常に最新の情報を維持。
  • 年に1回、主要業務の手順を見直し、業務改善の観点からも文書の適正化を行う。
  • ISO9001の要求事項(8.5.1他)に基づき、作業手順が管理された状態で維持されているかをチェックし、従業員が正しく理解し実行しているかを定期的に確認。

🛠 適切な文書化のための3つのポイント

  • 1. 実態に合った文書のみを作成する 現場が活用できるものだけを残し、不要な文書は排除。
  • 2. 文書の種類を統一し、簡潔にまとめる フォーマットを統一し、分かりやすい構成にすることで、現場の負担を軽減。
  • 3. 定期的に見直しを行う 一度作った文書を放置せず、年1回程度の見直しを実施。

📌 まとめ

ISO9001の文書化は「多すぎても、少なすぎてもダメ」です。自社の業務に合った適切な文書を作成し、使いやすい形で管理することが成功の鍵となります。また、ISO9001の規格要件を満たすことも重要です。適切な文書を整備することで、品質管理の一貫性が保たれ、顧客満足度の向上や業務の効率化につながります。事例を参考にしながら、まずは自社の文書を見直してみましょう!

この記事を書いた人Wrote this article

森田 康之

森田 康之

ISO9001の審査員として活動中。中小企業診断士、ISO14001の審査員補の資格を保有。企業にフィットしたISOシステム「みのたけISO」を構築するため支援を提供する。

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