品質マニュアルはもう古い?ISO 9001の進化と賢い活用法

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ISO 9001は品質マネジメントシステムの国際規格として、企業の業務効率向上と顧客満足の向上を目指してきました。しかし、その歴史を振り返ると、以前のISO規格では文書の作成や管理に多大な手間がかかっていたことがわかります。特に品質マニュアルの作成は、多くの企業にとって大きな負担となっていました。

以前のISO規格と文書作成の手間

品質マニュアルとは?

かつてのISO 9001規格(2008年版)では、品質マニュアルは品質マネジメントシステム(QMS)の中心的な文書であり、以下の内容を含むことが求められていました:

  • 品質方針と品質目標:組織の品質に対する方針や達成すべき目標を明示。
  • 品質管理の責任と権限:各プロセスにおける責任者や権限を明確に。
  • プロセスの手順とフロー:各業務プロセスの手順を詳細に記載。

下位文書の作成とその理由

品質マニュアルの他にも、多くの下位文書が作成されました。これらの文書には、具体的な手順書、記録、チェックリストなどが含まれ、以下の理由で作成されました:

  • 標準化:全社員が同じ手順で業務を行うことで、品質のばらつきを防ぐため。
  • トレーサビリティ:問題が発生した際に、その原因を特定しやすくするため。
  • 監査対応:内部監査や外部監査の際に、必要な情報を即座に提供できるようにするため。

これにより、企業は大量の文書を作成・維持・更新する必要があり、多くの時間とリソースが費やされました。

ISO 9001:2015版での変更点

2015年に改訂されたISO 9001規格では、文書化に関する要求が大幅に緩和され、柔軟性が高まりました。特に品質マニュアルの作成が必須要件ではなくなったことが大きな変化です。

なぜ品質マニュアルは不要になったのか?

  • 柔軟な運用の促進:企業ごとに異なる運用環境やニーズに対応するため、文書化の要件が柔軟になりました。
  • リスクベースの思考の導入:リスクと機会を評価し、必要な文書化された情報を選定することが強調されました。
  • デジタル化の進展:デジタルツールやシステムを活用することで、必要な情報を効率的に管理・共有できるようになりました。

それでも品質マニュアルを活用する企業のメリット

品質マニュアルの作成が必須ではなくなったとはいえ、あえて品質マニュアルを作成・活用する企業も少なくありません。その理由は以下の通りです:

  1. 組織の一貫性と統一感の確保
    • 新入社員や部門間での認識統一:組織の品質方針や目標、プロセスを明確に示すことで、全員が同じ方向を目指す。
  2. 教育・研修ツールとしての活用
    • 学習資料として最適:品質マニュアルを教材として使用し、社員のスキルアップや品質意識の向上に寄与。
  3. 外部ステークホルダーへの説明
    • 取引先や顧客への信頼獲得:品質マニュアルを提示することで、組織の品質管理体制を明確に伝え、信頼性をアピール。

結論

ISO 9001:2015の改訂により、品質マニュアルの作成が必須ではなくなりましたが、品質マニュアルの有用性は依然として高いです。企業は、自社のニーズや運用環境に合わせて、品質マニュアルを作成・維持するかどうかを判断することが重要です。

品質マニュアルがあることで、組織全体が一体となって品質向上に取り組む姿勢が明確になります。これにより、顧客満足度の向上や業務効率の改善が期待できるでしょう。

この記事を書いた人Wrote this article

森田 康之

森田 康之

ISO9001の審査員として活動中。中小企業診断士、ISO14001の審査員補の資格を保有。企業にフィットしたISOシステム「みのたけISO」を構築するため支援を提供する。

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