顧客要求の確認不足からの逆転!A社がISO9001適合を達成するまで

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企業がISO規格への適合を目指す際、現場ではどのようなことが起こっているかをお伝えすることを目的として、本コラムでは、ISOに適合するための取り組みを、架空の会社であるA社のストーリー仕立てで説明します。

A社の現状と課題:顧客要求の確認不足

樹脂加工業界で中堅の位置にあるA社。長年の経験と技術力を持ちながら、最近は顧客からのクレームや納期遅延が増加し、業績も伸び悩んでいました。

時折開催する改善の打ち合わせでは、営業部門が顧客からの注文を受ける際に詳細な確認をせず、見積もりや納期を回答していたことが主な原因であることが分かってきました。製造部門との情報共有も不十分で、現場は突然の要求に対応せざるを得ない状況でした。

これは、ISO9001の箇条でいうところの、8.2「製品及びサービスに関する要求事項の確認」を満たしておらず、A社の品質管理上の大きな課題となっていました。

ISO9001への適合を目指して:箇条8.2への取り組み

A社は、組織全体の品質マネジメントを見直し、ISO9001への適合を目指すことを決めました。特に、箇条8.2への対応が急務とされ、以下の具体的なアクションを実施しました。

  1. プロセスの見直しと明確化
    • 受注プロセスの可視化:営業から製造、品質管理までの流れをフローチャート化し、情報の流れと責任者を明確化。
    • 責任範囲の再定義:各部門の役割と責任を再設定し、誰が何を行うべきかを明確に。
  2. 顧客要求事項の確認手順の策定
    • チェックリストの導入:顧客の要求事項を詳細に確認するためのチェックリストを作成し、受注時に必ず利用。
    • 横ぐしチームの設置:営業、製造、品質管理の代表者によるチームを結成し、受注前に共同で要求事項をレビュー。
  3. コミュニケーションの強化
    • 定期ミーティングの実施:部門間の定例会議を設定し、案件ごとの共有事項や問題点を迅速に解決。
    • 情報共有システムの導入:社内の情報共有ツールを活用し、リアルタイムでの情報更新を可能に。
  4. 教育と意識改革
    • ISO9001研修の実施:全社員を対象に、ISO9001の基本原則や品質管理の重要性に関する研修を実施。
    • 品質意識向上活動:社内キャンペーンや掲示物を通じて、「品質第一」の意識を浸透。

成果と効果:信頼の回復と業績向上

これらの取り組みにより、A社には以下のような明確な成果が現れました。

  • 納期遵守率の向上
    • 顧客の要求事項を的確に把握し、製造スケジュールを最適化。これにより、納期遅延が大幅に減少。
  • 顧客満足度の向上
    • クレーム件数が半減し、リピートオーダーや新規顧客の獲得も増加。
  • 社内コミュニケーションの改善
    • 部門間の連携強化により、業務効率が向上し、社員間の協調意識がアップ。

全社的な品質向上:ISO9001全体への適合

A社は箇条8.2への対応だけでなく、他の箇条についても積極的に取り組みました。

  • リスクと機会の管理(箇条6.1)
    • リスクアセスメントを導入し、潜在的なリスクの低減と新たなビジネスチャンスの創出を実現。
  • 支援(箇条7)
    • 資源管理や社員の能力開発に注力し、適切なインフラと作業環境を整備。
  • パフォーマンス評価(箇条9)
    • 内部監査とマネジメントレビューを定期的に実施し、組織全体のパフォーマンスを評価・改善。

まとめ:組織全体の成長へ

この例からわかるように、ISOの各箇条は品質や顧客満足を維持・向上する上でのポイントが集まったものとなっています。従って、ISOを取得する取り組みを進めるなかで、漏れの無いマネジメントの仕組みが完成されることになります。

A社の事例は、一部の課題への取り組みが組織全体の品質向上につながることを示しています。ISO9001への適合は単なる認証取得ではなく、継続的な改善と組織の成長を促進するツールとして活用できます。

この記事を書いた人Wrote this article

森田 康之

森田 康之

ISO9001の審査員として活動中。中小企業診断士、ISO14001の審査員補の資格を保有。企業にフィットしたISOシステム「みのたけISO」を構築するため支援を提供する。

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